コンセプト

「生成音楽」は装置やルールを使う自動作曲の音楽です。生成音楽ワークショップは過去の生成音楽の名作を「再演」します。城一裕と金子智太郎により2010年から活動しています。

〈生成音楽について〉

アンビエント・ミュージックの提唱者として知られるブライアン・イーノは、1996年に「生成音楽1(Generative Music I)」という作品を発表しました。フロッピーディスクで発売されたこの作品はSSEYO社のソフトウェアKoanを使用しています。このソフトウェアは一般的な音楽メディアのように記録された楽曲を何度も再生するものではありません。音の種類や進行の割合を定めた設定にもとづいて、ランダムかつ自動的に音を奏でることができます。同じ設定でも起動するごとに異なる音の展開を生成するのです。イーノはこのソフトウェアの設定のバリエーションを自分の楽曲として発表しました。生成ソフトウェアのなかでは、生成映像ソフトウェアを使ったスクリーンセーバーなどがすでに多くの人に身近になりました。

Generative Music I:http://www.intermorphic.com/tools/noatikl/generative_music.html#generativeMusic1

イーノは「生成音楽1」の発表後、生成音楽というコンセプトの普及にも努めました(生成音楽という用語を初めて使ったのが誰かは定かではありませんが、普及させたのは彼でしょう)。彼の説明によれば、生成音楽は必ずしもコンピュータを使うものではなく、ルールや装置を使ったランダムで自動的な作曲は以前から行われてきました。イーノが例としてあげたのは、テリー・ライリー《In C》(1964)、スティーブ・ライヒ《It’s Gonna Rain》(1965)、自分の作品《Music for Airports》(1978)、そして風鈴などです。《In C》は独特な演奏ルールをもつ作品、《It’s Gonna Rain》と《Music for Airports》は複数の不ぞろいなテープ・ループを同時に再生してつくられた作品です。風鈴も風を利用して音を生成する装置です。現在でも「生成音楽」はコンピュータによる自動作曲に使われがちな用語ですが、イーノはこの手法が長い歴史をもつことをくり返し説明しました。

Brian Eno on generative music: http://www.inmotionmagazine.com/eno1.html

コンピュータによる自動作曲は一般的な作曲を補助するツールとしても利用されています。手作業では困難なほど精緻な音の構成を自動化によって実現しようとする手法です。一方、生成音楽の本質はおそらく、作家が思いどおり音を並べていくのではなく、作家の意志をはなれて動きつづけるもの(自然、機械、集団…)に音の展開を委ねてしまうことにあります。この手法は一般的な音楽の枠組みから外れていた音文化、風鈴のような音具やいわゆるサウンドスケープなどと深い結びつきをもっています。

音楽の外部に通じているだけでなく、この手法は現在もアップデートされています。Maxなどの生成音楽ソフトウェアの普及によってラップトップ・パフォーマンスにこの手法を取り入れられるようになりました。また、モバイル・コンピュータでも生成音楽アプリケーションが数多く発売されています。イーノがピーター・チルヴァースと制作したiPhoneアプリケーション《Bloom》(2008)では、楽器と生成ソフトウェアが融合しています。同じくiPhoneアプリケーション《RjDj》(2008)では、モバイル・コンピュータならではの環境の変化が音の生成に作用します。

Bloom: http://www.generativemusic.com/

RjDj: http://rjdj.me/

〈生成音楽ワークショップについて〉

このワークショップは生成音楽の過去の名作を「再演」することで、この手法のさらなる理解を目指します。演奏のたびに異なる音を奏でるのが生成音楽の特徴なのにもかかわらず、過去の作品のほとんどは記録音源でしか接することができません。また、記録音源は時間が限られているため、たえず変化を続ける生成音楽のプロセスを十分に体験することもできません。

過去の生成音楽の作品にはインストラクションがあります。例えば次のようなものです。

《振り子の音楽》マイク、アンプ、スピーカー、演奏者のための

「2、3、4、またはそれ以上のマイクをケーブルで天井から吊るす。床から等距離になるようにする。振り子のように揺れるようにする。マイクケーブルはアンプに、アンプはスピーカーに接続する。つながったスピーカーの少し上にマイクがぶら下がるようにする。…」

http://www.ubu.com/aspen/aspen8/leadPendulum.html

こうした明確なインストラクションがなくても、詳細な解説や画像が残っている作品もあります。このような情報をもとに生成音楽を「再演」します。これは楽譜にしたがって楽曲を演奏することに似ています。しかし、生成音楽の場合はインストラクションを完璧に守ったとしても、再演が過去の作品と同じ音を奏でることは原理的にありえません。

装置を使う生成音楽の場合、演奏のためのスキルは要求されません。必要なのは機材とそれをあつかう知識です。このサイトのアーカイブでは、過去に取りあげた作品の再演の詳細な記録と、作業から得られたノウハウを公開していく予定です。私たちは生成音楽の再演をDIY的な実践と考えています。

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